日本心理療法統合学会インタビュー

日本心理療法統合学会 福島理事長への「心理療法統合」独占インタビュー

2022年6月28日、弊社メディカルリクルーティングの独占インタビューに日本心理療法統合学会 理事長を務める福島哲夫先生が心理療法統合と日本心理療法統合学会の魅力を語ってくださいました。

これまでに弊社では同学会副理事の杉原先生の統合心理療法セミナーを実施し、好反響をいただいており、10月には福島先生のセミナーも開催予定です。心理療法統合に興味がある方はもちろん、これまで心理療法統合に触れてこなかった方も、ぜひ福島先生のインタビュー記事を読んでいただければと思います。

【質問】日本心理療法統合学会について、紹介してください。

学会は2019年11月に発足しました。趣旨は、「特定の学派に偏らない。でも、いろんな学派も大事にする。そういう多様性を重んじる心理療法の学会を作りたい」というのがなによりの趣旨でした。

実は少なくとも2005年から東京では心理療法統合を考える会という母体がありました。年1回は大会・研究会を開いて、当時「ワンコイン学会」といって参加費500円で100人くらいが集まりました。お茶の水女子大の岩壁先生、東大の中釜洋子先生、明治学院大の野末先生、私、そして平木典子先生をお迎えして開いていました。

すごく仲良く楽しくやっていて、学会にするのは面倒だよねと話していました(笑)学会にするともっと参加費がかかってしまうし。ただ、中釜先生が東大だったので、もし学会にするなら中釜先生を中心にガチっと作ろうと思っていたんです。そうこうしているうちに中釜先生がガンで亡くなられてしまって。それで、ますます学会にしなくていいよねって。特に僕と岩壁先生は(笑)

その一方で、2010年に関西では、東先生を中心に関西折衷的心理療法研究会を毎年開いていたんです。彼らとは学会で顔を合わせて自主シンポジウムをしたり仲良しだったので、「関東・関西の両方を合わせた研究会をやろうよ」となって、2013年から交流会として「東西の会」というのを開いて、今年は大阪、次は東京で…みたいに交代で開いていました。

それと同時にSEPI(The Society for Exploration of Psychotherapy Integration)という国際学会が30年くらい前からあったので、そこに参加して。岩壁先生を中心に、岩壁先生は毎年発表したり、私や東先生はたまに発表したり。それで日本も学会を作った方がいいんじゃないかとなり、2019年に発足したんです。ちょうどその翌年2020年には岩壁先生がこの国際学会の理事長も務めました。

日本心理療法統合学会の公式HP

内輪びいきかもしれないけれど、統合学会に入る方は皆さん謙虚でいい人です。それはそうだと思う。異なった学派の良さを認めようとしているのが基本で、自分の学派が一番と思っているわけではない。

「自分たちの学派が一番」と主張する人たちは時にとても排他的で、そういうのは日本外国問わずありました。認知行動療法が始まったときは「これだよ、これ。すばらしい考え方だよ」となったけれど、だんだんと「認知行動療法だけが正しい」という先生が増えて。その後、どの学派も同じような治療効果だとはっきりしたけれど、そういうのは触れずにCBTだけが科学的な方法だと推す先生もいます。 

1つの学派だけを押し進めるエネルギーに伴って、独善的、排他的になるのは避けられないのかもしれない。歴史で繰り返しているので。そういうのも私は受け入れるけど、心の中で「あー…」とはなりますね。

私はユング派出身ですけど、それでは足りないし、他のものも勉強したい。そういうふうにしていけば謙虚になっていくしかない。

<そういえば学会HPから見られるセミナー動画の中に、先生は自律訓練法が嫌いだけれどクライエントに有効なら使うとありました。>

私自身が集中するのが苦手で自律訓練法をすると気が散ってしまうんですけど、やる方に回るとゆっくり言ったりできるので、施術者になるとかなり落ち着いてできるし、とても評判がいいんです。かなり効果があります。

【質問】現在の学会員の構成はどうなっていますか?

今、学会員は160人くらい。7割くらいが臨床心理士・公認心理師。あとの3割は大学院生やキャリアカウンセラー、産業カウンセラーなど資格を持った方たち。資格のない方はいらっしゃらないです。

年齢構成は若干高め。40~50代が多く、平均は40歳近いと思います。産業カウンセラーやキャリアカウンセラーがそこそこ多いことと、心理療法を統合しようと思うのは現場に入って数年経つでしょうし。

男女比は心理臨床学会等に比べると男性が多く、男性4・女性6くらいだと思います。

【質問】どのように心理療法統合を身につけていけばよいのでしょうか。

心理療法統合を学ぶのは実は結構難しいです。学び方には所説あって定説はなく、書籍『心理療法統合ハンドブック』(誠信書房)の、ちょうど私が担当した章で紹介しています。

まず共通要因アプローチと言いますが、傾聴・共感を学ぶと同時に統合的なアプローチ…姿勢だけでも身につけましょうという説が有力です。

しかし、それに対する反論として、「何も知らないものを統合できない」という考え方があり、どれか一つを4~5年きっちり学んでから統合的アプローチを学んだ方がいいという説(同化的統合アプローチ)もあります。

ただこれに対する批判は、一度しっかり染まってしまうとそれが一番になってしまって、それを深めることしかしなくなるし、それに合う事象しか見えなくなり、本当の統合とは言えないのではという反論もあります。どちらも正しい感じはするのですが…。

それと私自身の経験として、私はユングが好きでユング派のトレーニングをして、精神分析も認知行動療法も勉強しましたが、現場に出てすぐに「ユング派だけではできない」と感じました。それで技法としても他のものも学びました。ブリーフセラピーなんかは結構学びましたね。

私の教える大学院のゼミ生には、初めから統合的なやり方を教えています。こういうクライエントさんにはこういうやり方があっているのでこうしましょう。こっちのクライエントさんには別のやり方をしましょう。理由はこうだからです、と。だから私の教え子は統合が当たり前です。そういうものだと。それ以外のやり方を知らないので、それはそれで偏っているのかな(笑)

そういうわけで、統合を学ぶのは結構難しい。でも、それぞれ個性のあるクライエントさんにベストを尽くしたいと思うのなら、もうそこから統合的な発想は始まりますし、「このクライエントさんにどうしたらよいか」といろいろ考えると、それが統合だと思う。で、そう思い始めたらこの『心理療法統合ハンドブック』を読んでいただければと思います(笑)

この本はちゃんとした本として作っているので、来年の年明けには「実践編」を若手と一緒に書く予定です。それを読めば、「統合ってそうやればいいんだ」、「こう勉強すればいいんだ」というのが見えるようになると思います。来年3月の学会には並べられると思います。ちなみに今年度の学会大会の開催は2023年3月に、神奈川大学でハイブリッド開催の予定です。

心理療法統合ハンドブックを手にして嬉しそうな福島先生

『心理療法統合ハンドブック』について、紹介してください。

この本は日本語で書かれた初めての総合的な統合心理療法のハンドブックです。これまではそれぞれの先生が個別で書かれたものはありましたが、今回は皆で集まって、世界の最新動向を集めて最新のものを書きました。その分、決定版という、かなり力が入ったものになり、少し全体が難しくなりました。しかも、だいたいシニア層が書いていますので…(笑)この本は順番に読む必要はないので辞書的に使っていただいたり、興味のあるところを読んでもらえればと思います。

また、第2部にそれぞれの確立した統合的心理療法(AEDP、フォーカシング志向心理療法、エモーションフォーカストセラピーなど)の考え方、歴史、治療技法、事例、効果が書いてありますので、それぞれ見ごたえがあるかと思います。しかも実用的になっていると思います。ただ、この第2部には症例を載せているのですが質もいろいろで、すごく参考になるものから、これはよくあるよねというものあって…(笑)まあそのへんの質の違いも楽しんでもらえればと思います。

【質問】学会では、統合的心理療法家をどのように育成しようと考えていますか?

現状として、年1回の学術大会で一番人気が高いのがライブスーパービジョンです。正会員・準会員の方だけが参加申し込みできるものですが、そうなると非会員の方から「なんで参加できないんだ」とクレームが来るくらい人気です(笑)

皆さん統合的心理療法を本で読めばある程度わかるしセミナーで勉強したけれども、じゃあ実際がどうなのかというのはなかなか目にしたことがないので、それをライブスーパービジョンという形でケース担当者のケース報告と立場の違った何人かのバイザーがそれぞれの考えでスーパービジョンをするのがすごく魅力的で、目玉企画になっています。

実際にまだ2回しかしていませんが、ケース発表した方も「すごく温かい中で新しい目が開けた」と言ってくださっています。バイザーの言うことはそれぞれ違いますが、それで混乱を生むのではなく多角的な視点が開ける。そういう意味で批判的ではない多角的なスーパービジョンとなっていて、この学会の本質を表していると思います。

それが現状ですが、できたら来年くらいから、いつも2月~3月あたりに学会をするので、半年くらい空けた9月か10月あたりに研修会としてスーパービジョンやワークショップをする日を作ろうと検討しています。

個別のスーパービジョン、メタスーパービジョン

また、個別のスーパービジョンは理事の先生や心理療法統合に詳しい先生方が既に行っていますが、学会のスーパーバイザー規定、資格制度を作って学会として認定スーパーバイザーの紹介の機能を果たせるといいなと思いますが、これはまだ個人的な見解です。ただそのための研究はずっとしています。私自身はここ5~6年、スーパービジョンの研究、スーパービジョンのメリットデメリットを含む研究をしています。

また、スーパーバイザーを育てるためのメタスーパービジョンも行っています。30~40代のバリバリの心理士だけどスーパービジョンはまだしていない人に、心理士の初心者を組み合わせて、スーパービジョンの動画を取ってもらう。それを私が見て指導することをここ3~4年やっています。クライエントのアセスメント、そしてバイジーのアセスメントをしながら、さらにできていること、もっとできるとよいことを明確に伝える。肯定的なポジティブなスーパービジョンをどう展開していくか、一緒に動画を見ながら伝えていきます。

とても評判はよいのですが、やってみるとメタバイザーが大変で(笑)資料を見て、動画を見て、このバイザーさんちょっと早口だなとか、少しダメ出しが多いなとか、課題を言っていないなとか、そういうのを準備してメタスーパービジョンに臨むので、そうたくさんはできないんです。

若手のスーパーバイザーはほとんどスーパービジョンのやり方は習ってきません。私自身の場合、博士課程を出てまもなく師匠から「こういう人がいるから指導してくれ」と言われ、お互い初心者同士みたいな感じで始めて(笑)もちろん、臨床経験は5~6年くらいは積んでいましたので基本的な指導はできますし。難しいケースについては一緒に考えるしかできなかったですが。そうこうしているうちに、だんだんと「資料の作り方をこうしてください」、「ここはできていますね」、「ここは次の課題ですね」とか、そういうのを明確に伝えるようになりました。それから、先ほども話したクライエントのアセスメント、バイジーのアセスメントがだんだんとできるようになりました。それをパッケージ化して若手に伝えたいなと思っています。

【質問】いよいよ学会誌が発行されると聞いていますが、状況について教えて下さい。

学術雑誌の第一号が今年の秋口にできる予定です。第一号分の投稿は既にされていて、査読に回っている状態です。Webジャーナルの形で発表できる予定です。理論研究と事例研究が来ていますが、心理臨床学会の事例研究とは違う、統合的な観点からの事例研究になっているので、実用性があると思います。

有名どころからもご投稿をいただいています。思わぬ大御所からも「HPで学会の趣旨を読んで参加したいです」とおっしゃっていただいたりしています。

研修会を増やして、ライブスーパービジョンやメタスーパービジョンもどんどんやって、スーパーバイザーを増やしていきたいです。ニューズレターも年3回くらい出していますので、会員向けの情報発信ができたらと思っています。

課題としては、新しい世代の育成です。ハンドブックを書いた理事たちの多くは60代で、若くて50代。40代の執筆者はごく一部でした。30代、40代の方を表舞台に引っ張り上げるのはとても大事なことと思っています。Web開催のイベントだと若手も発言しやすいようでとてもよい雰囲気ですが、対面開催でも壇上に上がってもらい、表舞台に出てこられるようになればと思います。他の学会、たとえばブリーフセラピー学会は若手が活躍していますが、それは東先生が早々と引退を決めて後進に道を譲っていて。その姿勢を学びたいですね。

【質問】今後の展望について、教えてください。

年内でおすすめの学会イベントは…うーん(笑)メディカルリクルーティングさんのセミナーに参加したり、関西カウンセリングセンターさんのセミナーに参加することをお勧めしたいくらいだけど…。

最後に、心理療法統合を知ると安定経営ができると言いたいですね。お客さんに役立つようカウンセリングしているので、実践すればお客さんは集まります。そして中断が少ないのは心理療法統合とエビデンスが出ています。有料のカウンセリングでなくても、皆さん自身のステップアップに繋がると思います。

<個人的な意見ですが、心理士が力をつけるためには単発のセミナーだけではなく、継続的な勉強会がかかせないと思っているのですが、今後そういった機会はないでしょうか?>

それは大事だと思います。私も継続的な勉強会は以前はずいぶんやっていたけれどね…。横浜の上大岡の公開スーパービジョンも年1回か2回ですし、最近はコロナもあって、スタッフミーティングさえもあまりやらなくなってしまった。以前は月1回くらい、みんなでセッション動画をみたりしていたのだけれど。

<ぜひやっていただけると嬉しいのですが。>検討します(笑)学会としてもそれができるといいですね。

<本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。>ありがとうございました。

おまけ:MRスタッフの編集後記

福島先生とは対面でお会いするのは初めてでしたが、とてもフレンドリーな対応をしていただき、テキストでは伝わらないかもしれませんが、終始楽しい雰囲気で、あっという間に時間となってしまいました。

日本心理療法統合学会はまだ発足して若い学会かと思いますが、その分、福島先生を始め先生方の熱量を感じ、今後の活動が本当に楽しみだな~と思いました。今後も動向チェックしつつ、応援したいと思います。本当にお忙しい中お時間をとっていただき、ありがとうございます!

福島先生のご紹介

福島 哲夫(ふくしま てつお)先生

大妻女子大学教授・人間関係学部長
臨床心理士・公認心理師
日本心理療法統合学会理事長
成城カウンセリングオフィス代表


明治大学文学部日本文学科卒業、慶應義塾大学大学院博士課程単位取得満期退学。大妻女子大学人間関係学部専任講師を経て、現在は同大学臨床心理学専攻および大学院臨床心理学専攻教授・人間関係学部長を務める。

2014年より成城カウンセリングオフィスを開設。日本心理療法統合学会理事長として、心理療法統合の普及に努めるなど心理臨床の幅広いフィールドで活躍している。

著書に『心理療法統合ハンドブック』、『公認心理師必携テキスト』、『臨床現場で役立つ質的研究法―臨床心理学の卒論・修論から投稿論文まで』など多数。

お知らせ

日本心理療法統合学会、学会員募集中!

日本心理療法統合学会は学会員を募集しています。学会員には臨床心理士や公認心理師などの資格を保有しているか、大学院等に所属している必要があります。詳しくは学会HPをご確認ください。

日本心理療法統合学会の公式HP

また、今後も学会情報を皆様にお伝えしていく予定です。乞うご期待ください。

『心理療法統合ハンドブック』(誠信書房)、好評発売中!

インタビュー中に福島先生が何度か触れていた『心理療法統合ハンドブック』(誠信書房)です。ご興味のある方はぜひご購入を。

メディカルリクルーティング主催:福島先生セミナー開催予定

メディカルリクルーティングにて、本年10月16日(日)にインタビューに応じてくださった日本心理療法統合学会 理事長の福島先生(大妻女子大学教授)のオンラインセミナーを開催予定です。

統合的な観点からのインテークとアセスメントをテーマにしています。これまで心理療法統合に触れてこなかった方も、ぜひご参加いただければと思います。詳しくは下記ページをご参照ください。

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